パンツの面目ふんどしの沽券読書記

この本はタイトルから抱いていた勝手なイメージ=パンツとふんどしの機能性や需要の対比、下着の覇権争いなどと云う単純なものではなく、思想、宗教をも包含する服飾史、ひいては文化史、文明史と、それらの起源をも探訪する壮大な内容でした。


まず本編の内容に触れる前に、この題材にかけた著者の米原さんの情熱と想いを知って貰いたいので、あとがき部分から紹介させて貰いたいと思います。


この本は元々、月刊誌『ちくま』にて2002年から2004年にかけての約2年間に渡る連載を単行本化し、2005年に出版されました。
当初は、グローバルアイデンティティー(パンツ)に追い遣られてしまったナショナルアイデンティティー(ふんどし)を一丁応援してやろうじゃないかという軽い気持ちだったと著者自身が語っています。ところが研究を進めて行くうちに、歴史的、文化的には、真のグローバルアイデンティティーはふんどしにあることに気付き、そこから果てしない彼女のふんどし研究が始まります。
この本に参考文献として掲載されたものだけでも、その数は約150点にも上り、ふんどしについて知れば知るほど一生を捧げても足りない程の壮大な題材だと実感したようです。
そこで、彼女はこの本の単行本化を棚上げし、ライフワークとして納得ゆくまで研究を重ねた上で出版をしたかったようです。


しかしそんな折り、彼女自身の体に卵巣癌が見付かり、摘出手術を受けたのですが、術後1年4ヶ月で再発箇所が見付かったことが記されています。
一般的に婦人科系の癌細胞摘出手術では、術後2年以内に再発しなければまず助かると言われ、これ以内に発症の場合は死亡率が高くなる言われます。
著者はこのことを知り、自らの死期が迫っていることを認識していたようで、「一生をかけても時間が足りないのに、人生そのものがカウントダウンに入ってしまった」と記しています。
そんな想いから連載終了後の約1年間で得た研究成果を追記する形でこの単行本が出版されました。
そこには、例え間違っていたとしても、不完全なものだとしても、これまでの研究成果を発表することで、後に続く研究者の露払い、水先案内くらいになれば良い、文字通りふんどし担ぎの役割を果たせればとの強い想いがあったようです。
故人の代表作としては、作家として評価を得た受賞作品などが挙げられるのでしょうが、米原さんの想いが最も詰まった作品は、本作だったのではないかと感じます。


本偏の内容については再度改めて紹介するつもりですが、もし米原さんがご存命であったならば、10年後、20年後にもっと内容の濃い、世界中を網羅した下着史が完成したのではないかと残念で仕方ありません。
心よりご冥福をお祈りいたします。